山口久吉の話
       詳しくは、民宿やま久 までご連絡ください。
                 0288−98−0902




    湯西川温泉 昔の外部交流、峠の山道A






                                   山 口 久 吉
  峠の山道

   四面山に囲まれた昔の湯西川村では、外部との交流は峠の山道を越えるしかなかった。

   暮らしに密接な関係のある経済、文化、情報等の交流等はすべて、峠の山道を経由したも
  のであった。 西山郷湯西川村と言われた時代から、外部との交流は重要な事柄であり、同
  じ村内でも峠を越えて行き来していた。  口ケ坂峠(土呂部峠)や岩代國との交流には、
  田代山道峠、枯木道峠、鱒沢道峠、湯坂道峠(猿鼻峠)と四ケ所の峠道があり、会津文化と
  経済交流に大きな役割を果たして来た。 川沿えの渓谷道は危険が多かったが、峠の山道は
  登り下りの労苦だけで歩行には安全であった。

   ではそれらの峠道を尋ねて見よう。


  安ヶ森 鱒沢道峠

   この峠道は、福島県の舘岩村に通じる峠道で、ウツルギ沢を遡ってユナゴ沢へ入り、だら
  だら坂を登り、ヤマガリュウの窟前で一休みして、更に登って右からの、小沢の落合の左曽
  根の急坂を登り、大畑沢の曽根を北上し芹沢境に出て、更に北上して安ガ森山の峰続きの、
  鱒沢峠に出て、此処から石南花と黐(とりもち)の木の密生している急坂を峠沢に降りて、
  鱒沢渓谷沿いに石の宮から戸中部落に出る峠道で、舘岩村との交流に古くから利用されてい
  た。

   鱒沢流域は共有地の山林で、椈(ぶな)の木の原生林が多かったので、湯西川の杓子作り
  は、一時期多くの人々が泊り小屋で同地のブドウ沢、ツチグラ沢、峠沢などに入って杓子作
  りに賑わっていた。 舘岩の人達は、木地屋が多く栃の大木を切り倒して、お椀の材料を取
  っていた。


  
黐(トリモチ)

   私が黐(トリモチ)作りを知ったのは同地であった。 湯の花の伯父達が六、七月の頃こ
  の山に入りトリモチの皮を剥ぎ五、六十粁を背負って、私達の杓子小屋に立ち寄ったことが
  度々あったが、このトリモチの皮は土倉落合に池を作り此処に浸して皮を腐らせて、臼でつ
  いて、ねはねば状にして、流れ水で伸ばしながら粗皮を流して、トリモチを作って居たのを
  時々珍しく眺めて居たことがあった。 伯父からはそのトリモチを、缶詰の空缶に貰って鳥
  さし等に使っていた。 そんな思い出の有るこの木を、庭の片隅に植えて観賞している。

  黐...この文字を草書体で書くと、なんと読むことが出来ない。 古文状でこの字に会っ
  た時、随分と苦労をした事があった。



  
湯坂峠(猿鼻峠)

   この峠は、湯西川の平沢を遡って、一山越えて芹沢から三依を経て会津へ通じる峠道で、
  経済交流の重要な道筋でもあった。
   生活文化、特に東北文化はこの峠を越えて湯西川に入ってきた。 湯の守り神として勧請
  された湯殿山信仰や、木杓子作りの刃物道具類(鉈等の銘 は重房)、酒の京屋(樽の銘に
  京屋、とあり中身は末広)、中荒井、衣類の会津絣り、や 会津縞、等の生活文化はこの峠
  を越えて伝承されたものであった。 

   長い年月にわたり行き来きしたこの峠道、それなりに色々な出来事があったろう。
   戦国時代近隣の田島城主、長沼盛秀は天正年間に、上三依の鶴ケ淵城を足掛かりに、その
  領域は五十里、芹沢、迄席 巻したが湯坂峠は越えて来なかった。 いわばこの峠によって
  湯西川は無事平穏であった。 それなりに多くの人々によって利用されてきた峠道、この峠
  の頂上に道行く人馬の通行、安全を祈願して祀られている石仏、施主は伴久左衛門、阿久津
  勘四郎、天保十三年十月の陰刻があり、この時代に祀られたもので、石像の高さ台座共に七
  十二糎で珍しい、三面六臂の馬頭観音である。


  
湯坂峠のハジキ酒


   湯西川で呑む酒は、殆どが会津から購入した。 酒は会津から中三依の会社荷扱所に着く
  その酒を背負いに湯坂峠を越えて、三依迄女人足が出掛けて行く、そして二斗樽の酒を背負
  って来ると、丁度湯坂峠で昼飯となる。 峠の頂上は絶好の休場である、女達は背負って来
  た酒樽に、適当の木を切って、ハジキ(梃子)を、かう樽板のスキマからメンパの蓋で、酒
  を受けて、ゴクツ、ゴクツ、飲んで昼飯を食べ、酒の勢いで峠の坂道を一気に下って、無事
  に湯西川に到着...村人達は誰言うとなくこの酒を、湯坂峠のハジキ酒と言った。

   こんな時代の変遷を知るか知らえでか、馬頭観音は峠の頂上に建っている、
   これからも車の交通安全を守護し続けて欲しいものである。






       湯西川温泉マニアックス トップページへ 戻る 
          湯西川温泉  民宿 やま久  囲炉裏の温泉民宿