山口久吉の話
       詳しくは、民宿やま久 までご連絡ください。
                 0288−98−0902




   湯西川温泉 昔の産業 木杓子つくり



                                    山 口 久 吉


    木杓子つくり

     山里の暮らしは、猟をして、ケモノや鳥を捕り、畑作によつて、稗などの雑穀を
    栽培し山の幸を採集して、これを加工食料とし。又山に分け入って木杓子つくり、
    地板挽き、桶つくり、下駄つくり、経木つき、箸つくり等が湯西川での生業であっ
    た。

     では、江戸時代から明治、大正、昭和と当地の経済を支えた、現金収入源の木杓
    子作りのあらましを述べてみよう。 当地のように山深い所では、林産資源を利用
    加工し軽くし人の背や馬の背によって、運び出し、売る以外には収入の道が無かっ
    た。こんな考えから生まれたのが、木杓子つくりであった。

     古老の話によると、江戸時代の中期、彫刻師であった阿部長右衛門という人が、
    自宅の厩の上に、細工場を作り小刀を道具に木杓子作りを始めたと云われている。
    その後村人達はこの仕事を教えてもらい、農業用の鎌を折り曲げて、道具とし近く
    にあったブナの木を材料として、杓子作りを始めたと云うことである。

     そしてこの仕事は益々盛んになり、山々の沢に杓子小屋を作り、泊り込みでブナ
    の木の良く割れる木だけを選び、これを伐採し杓子小屋に運び、木杓子の生産に励
    み道具類は会津若松地方から購入し、江戸時代から明治、大正、昭和と大東亜戦争
    勃発迄が最盛期で、外に収入源の無かった湯西川地域では、重要な主産業として栄
    えて来た。

     男の子は、学校が終わると誰でも杓子作りになりました。 湯西川では杓子作り
    の出来ない人は、ビッコかカダワかギッチヨ、といわれるくらいで、ギッチヨ(左
    利き)では左刃の道具が無かったので出来なかった。 杓子作りが一人前になるの
    には、最低五年はかかり、道具作りからだから大変な仕事であった。 現在七十歳
    以上の男なら誰でもが経験者である、ただ当時、よその村からの入り婿の男には出
    来なかった。

     この地区に、山城平定と云う人が屋号を「カネマタ」と称して杓子問屋となり、
    湯西川の杓子を一手に集荷しこれを東京に出荷していた。 


    杓子で学校を作る

     明治三十五年の、学校基本財産貯蓄趣意書の古文書には、教育事業の必要性を強
    調し学校を設立するための基本財産として、各自製造した杓子を、前月拾五本づつ
    を貯蓄し五名の預かり人を公選し、集まった杓子を入札によって公売し、その金を
    貯蓄して学校を作ると云う趣意書であり、杓子で学校が出来たのであった。
     学校が出来るまではお寺が学校であり、お寺の本堂が勉強の場所でもあった。


    杓子の材木と価値

     このように村内のブナ材を杓子に生産し、ブナの適材が少なくなると、遠くの山
    々から会津地方迄進出して、県境から鱒沢や田代山、又遠く田島町の栗生沢、高野
    羽塩等に出稼ぎして杓子作りをし、若い人の中には、その土地に婿入した人もあり
    その地で後継者を育成し、会津地方迄杓子作りを広めていった。 福島県の田島町
    史等の文献にも木杓子作りが、栗山村の湯西川から伝いられたと書かれている。

     館岩村の田代山の、泊り小屋での杓子作りは、一週間位で一背負分の荷が纏ると
    折取沢奥の曽根迄出会いにして、ここで家からの食糧と小屋からの杓子を交換し、
    又泊り小屋に戻り木杓子作りに励んだが、大正六年の冬山では、表層雪崩に巻き込
    まれ七名が死亡する、という事故があり、郷中を揺るがすような、大騒ぎとなった
    事件があった。

     この木杓子の値段であるが、昭和三年に四寸並杓子六百本入りで十七円、三寸二
    分六百本入りで十六円であった。 この木杓子作りは一時期地域の経済を支えた、
    重要産業であったとして、昭和三十九年十二月八日、県の選択民族文化財、に指定
    された。


    ★ 木杓子作りの詳細は(杓子木山、杓子小屋、杓子作りの仕事着、仕事の工程
     と道具杓子作りの生活と俗信)
                私の備忘録、栗山村教育委員会、をご参照ください。

                   木杓子つくり

                          ふるさと探訪 湯西川 E








       湯西川温泉マニアックス トップページへ 戻る 
          湯西川温泉  民宿 やま久  囲炉裏の温泉民宿